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再考!日本映画
第14回 文化通信社記者 映画ジャーナリスト・大高宏雄

大高宏雄氏
文化通信社記者 映画ジャーナリスト
大高宏雄 氏

興行を決定する情報戦の中、映画を伝える言葉が問われている 膨大な興行データに裏付けられた確かな視点から、業界へ数々の意見を投げかけてきた映画ジャーナリスト・大高宏雄氏が、日本映画業界の現状を論じ、そこに孕まれる問題点を指摘する

映画ジャーナリスト・大高宏雄氏は、映画を興行論、作品論の両サイドから論じられる稀有な存在だ。「キネマ旬報」はじめ毎日新聞など多数の媒体で執筆するほか、その著書も数多い。それと同時に、業界の最新動向を伝える文化通信社記者でもある氏が、日本映画好調の要因を鋭く分析。さらに話題はシネコンの都市部進出、ハリウッドメジャーによるローカルプロモーションの推進から、マスコミへの鋭い提言にまで及んだ。

情報戦の激化と洋画メジャーの参入

ここ数年、日本映画は情報戦の様相を露わにしています。つまり、宣伝・興行をどう仕掛けるかという戦略が、興行を大きく左右している。この情報戦を制するポイントとなるのが、TV局という存在です。例えば日本テレビほかが昨年製作した『デスノート』の場合、前篇を公開4ヶ月という、異例の早さで前篇のTV放映に踏み切り、そのわずか一週間後に後編を劇場公開している。つまり、前篇が情報戦の中に組み込まれ、宣伝として機能することで後編の爆発的ヒットを生んだわけです。またフジテレビは、空前の大ヒットとなった『南極物語』以来、編成などを巻き込んだ全社一体型のイベント化をお家芸としてきている。しかしフジテレビに関しては、「踊る大捜査線」を経て「海猿」シリーズでピークに達した情報戦略が、06年の『ブレイブストーリー』『UDON』を経て、現在曲がり角に差し掛かっているとも言えますが。

加えて『デスノート』でもうひとつ抑えるべきは、洋画メジャーのワーナー・ブラザースが日本映画の配給を手掛けたことです。現在アメリカ本国の映画市場は好調なものの、世界規模で見ると興行成績にバラつきが出始めている。実際、日本の市場に関して言えば、かつては10〜20億規模のヒットを飛ばすハリウッドの洋画がたくさんあったけれども、今はその部分を日本映画が担うようになってきた。そこでワーナーも、各国に根差した製作・配給を行うローカル・プロダクションを推進しているんです。『デスノート』の成功を受けて、ワーナーは現在5本のローカルプロダクション作品を待機させています。「ハリー・ポッター」のようなブロックバスターとセットで交渉するわけだから、そのブッキング力は強力ですよ。当然有力チェーンを押さえることができる。

さらに、ワーナー以外の各社も、ソニー・ピクチャーズが『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』、ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンのパッケージ部門が『どろろ』に出資しています。ウォルト・ディズニー・カンパニーも、現在ローカルプロダクションの準備段階にある。つまり映画製作・配給・パッケージの各段階で、日本映画への参入にハリウッド・メジャーが積極的になっているんです。

シネコンの都市部進出

また、最近の動向でもうひとつ注目してるのが、都内へのシネコン進出です。新宿を例にすれば、東宝とティ・ジョイの共同運営で新宿バルト9が今年竣工したし、新宿松竹会館もシネコンへと再開発されますね。さらにその数年後には、東宝、ヒューマックス、東急レクリエーション、東亜興行の4社共同で歌舞伎町に国内最大級のシネコンが誕生予定です。とにかく銀座以外の他の都内繁華街は、遠からず完全にシネコンとミニシアターだけになるでしょうね。それに、チェーンマスターの劇場が点在する銀座はまだ各メイン館が分立してるけど、独自のプログラム編成が映画ファンから支持されていたみゆき座やスバル座は、ランクの低いチェーンに組み込まれてしまった。でも、そうやって個性的な映画館が消えていくのは、由々しき問題だと思いますね。例えば『ラスト・タンゴ・イン・パリ』や『エイリアン』は新宿プラザ、『1900年』はスバル座、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』はユーロスペースでといったように、僕にとっての映画体験は、常に映画館の記憶と共にありますから。『仁義なき戦い』を歌舞伎町東映で見るなんて、今考えてもゾクゾクするじゃないですか。しかし、果たして今の若い人たちにとって、シネコンは映画の記憶と共に残る場所となるんでしょうかね。

そんな時代の趨勢に逆行するように、映画と共にそれを観る場所である映画館を復興させようと、荒戸源次郎さんは上野の国立博物館内に一角座を建てた。観客の立場から映像と音響設備に徹底してこだわり、映画館そのものの魅力へ原点回帰する、非常に野心的な試みだと思います。

情報戦に抵抗して

先日、その一角座へ大和屋竺監督の『愛欲の罠』を観に行きました。鈴木清順の流れを汲む作家として当時から高く評価されていた監督の、4作目にして最後の作品。その消失したと言われていた幻のフィルムが30振りに突如上映されたのは、私にとってひとつの大きな映画的事件でした。でも残念ながら、世の中に対しては何らインパクトを与えていない気がします。情報においてゼロに近いのが、とにかく寂しい。また、『仁義なき戦い 完結篇』などの脚本家で知られる高田宏治氏が製作した『県警強行殺人班 鬼哭の戦場』は、私の今年上半期ベスト1だった松本人志の『大日本人』を超える傑作でしたが、これも全く無視されている。大量の情報が流れることで消費のサイクルが加速度的に短くなって、その中で映画も消費され尽くしているんです。でも本来、情報に埋没しないだけの力が映画にはあったわけですよ。しかしその情報を覆していくべき映画そのものも、現在は情報として消費されていく。

大高宏雄氏プロフィール

1954年生まれ。明治大学卒業後、文化通信社に入社。「キネマ旬報」の「大高宏雄のファイト・シネクラブ」はじめ、毎日新聞ほかで連載を持つ。『ミニシアター的!映画がもっともっと好きになる本』『日本映画逆転のシナリオ』『日本映画への戦略』『興行価値─商品としての映画館』『仁義なき映画列伝』など、著書は多数だ。また87年、映画批評誌『映画前夜』を個人で創刊し、各種映画イベントを企画。加えて、91年より年1回、日本映画プロフェッショナル大賞を主宰し、2007年に16回目を迎えた。

そういった状況の中、特に我々マスコミに携わる人間は、巨大メディアが発信する情報の物量に翻弄されることなく、現在の状況を変えるべく発言していかなければならない。それも、限定された層にのみではなく、広く世間に届く言葉でね。そのためには『愛欲の罠』『県警強行殺人班〜』『西遊記』『大日本人』も、同じ映画として分け隔てなく観ることが大前提になります。その上で、大和屋竺や高田宏治、松本人志といった才能に出会った衝撃を語り広げることで、何らかの突破口を抉じ開けていく必要があるんです。
(月刊DVDナビゲーター2007年10月号より転載)

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