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再考!日本映画
第13回 東京フィルメックス 映画祭ディレクター・林加奈子

林加奈子氏
東京フィルメックス 映画祭ディレクター
林加奈子 氏

新旧によらず、今観られるすべてが現在の映画なんです 独自の情報網で世界中の映画を網羅的にチェックし、東京発世界水準の映画祭をディレクションしてきた林加奈子氏が、“現在の映画”に対し映画祭が担うべき役割を語る

00年、“新・作家主義”を標榜して旗揚げし、今年で8回目を迎える国際映画祭・東京フィルメックス。その映画祭ディレクターとして、アジアを中心とする世界の映画作家の個性を前面に打ち出したプログラム編成で新たな、そして知られざる才能を紹介してきたのが林加奈子氏だ。日本映画においては、西川美和『蛇イチゴ』、塚本晋也『六月の蛇』、塩田明彦『カナリア』、黒沢明『アカルイミライ』、SABU『幸福の鐘』、行定勲『贅沢な骨』などを上映し、新進・中堅監督をサポート。一方旧作では、小津安二郎と同年生まれで163本もの作品を遺した清水宏、怪奇映画をはじめ多ジャンルで熟練の職人芸を発揮した中川信夫、独特のユーモアと軽快なテンポで知られる“喜八タッチ”の痛快娯楽作を量産した岡本喜八らを特集上映し、国際的評価の遅れてきた映画作家たちに光を当ててきた。新旧によらず、現在観ることの可能な映画の発見に寄与してきた林氏が、日本映画の現状、そして映画祭ディレクターとしての使命を語る。

商業主義との戦いに伴走して

東京フィルメックスがプログラム編成の際のポイントにしているのは、その映画に作家性が認められるかどうか。でも最近は、独自の個性のある映画を探すのが如実に難しくなってきましたね。我々は作品を選定する際、バジェットや公開規模の大小には全然こだわっていません。ただ大手映画会社が配給する映画に、作家の顔が見えづらくなっているのは確かです。ベストセラーやTVドラマといった原作や人気TVタレントを前面に売り出される映画によって、日本映画ビジネスは牽引されているんだと思います。でも最近は、そういった日本映画の勢いにやや翳りが見え始めてますよね。私が危惧しているのは、今後そうした商業路線が凋落した時、映画産業全体が地盤から崩れ落ちてしまうことです。でも優れた作家の映画が、商業路線の退潮と共倒れするのを見過ごすわけにはいかない。だから我々としては、ビジネス的な要請に対する映画作家の抵抗の痕跡や、それでも滲み出る主張を見出すことができる作品を応援しているんです。

つまり現在は、プロデューサーとの巧みな交渉力も映画作家に問われている。ホラージャンルの範囲内で個性を発揮している黒沢清監督、女子高生バンドの青春を描いた『リンダ リンダ リンダ』でヒットした後、一転して『松ヶ根乱射事件』で地方都市の病理を炙り出した山下敦弘監督、『鉄男』から一貫して独自の表現を追及し続ける塚本晋也監督、『誰も知らない』で社会的な題材を世界に投げかけた是枝裕和監督など、皆どうやって作家性を確保しながら市場に出るか、トライアルし続けていますよね。また、『殯の森』でカンヌのグランプリを受賞した河瀬直美監督のように、海外の資本で映画を撮る日本人作家も、今後増えてくるかも知れません。

開かれた作家主義

このように、個性的な映画作家を紹介する映画祭だと明確に伝えるために打ち出したコピーが、“新・作家主義”。ただ、それでは難しい映画だけやっている映画祭だと誤解され、客層を限定してしまうおそれもある。でも我々には、分る人にしか分らないことをやっているという気持ちは全くないんです。あくまで映画の素晴らしさを素直に伝えたいだけなんですから。それに、私たちは作家主義でもありますが、それ以上に作品主義でもあるんです。つまり、好きな監督の作品をすべて無条件で擁護するわけではない。その監督が自分自身の問題意識と格闘しているかどうか、作品ごとに見極めているんです。

ですから、監督の名前に敏感に反応するコアな映画ファンだけでなく、一般の若い観客にも会場に足を運んで欲しい。でも今の若い世代は映画の数が多すぎて、何を観たらいいか自分で選べないみたいなんですね。だから、アカデミックじゃない言葉で高度な解釈をお客さんの胸に届けられる、淀川長治さんのような評論家がいたらどんなに救われるかと、今、切実に思っています。

クラシックの新たな発見

加えて、新作だけでなく東京国立近代美術館フィルムセンターと共催している旧作特集でも、間口は広くあるべきと考えています。きっかけは三船敏郎や田宮二郎でもいい。往年の映画スター目当てで来場した観客が、フィルメックスをきっかけに監督で映画を観る悦びに目覚めることもあるでしょうし。例えば去年は岡本喜八監督を特集したけれども、喜八映画の三船敏郎は、同時代の黒澤映画とは全く別の魅力を発散している。その新しい三船敏郎に出会った観客が岡本喜八監督の名前を覚えて、じゃあ他の作品も観ようとなれば、その時点で作家性との対話が始まっているんですね。

加えて我々は、東京から海外に向けて新しい映画の価値観を伝えるべく、英語字幕付きの上映にこだわっています。清水宏や内田吐夢の場合、東京フィルメックスで特集した後にベルリン映画祭やロッテルダム映画祭で上映され、次に小さな映画祭やアーカイブ、シネマテークを巡回して、さらに北米にも紹介されていった。中川信夫の特集上映では、新東宝のエログロ路線として観られていた彼の怪奇映画が、今のJホラーの源流に当たるという視点を提示しました。岡本喜八も、当時の二本立てでは黒澤明のB面だったけど、私たちはA面なんだと打ち出した。そうすることで、日本映画の新たな魅力を海外に発信できるわけです。映画は遺産じゃなくて資産なんだから、クラシックと言えども発見と共に新たな観客を獲得すべきだと思う。フィルメックスでは、旧作であろうとも観客賞の対象にしていた年

林加奈子氏プロフィール

東京フィルメックス 映画祭ディレクター。1986年から97年まで財団法人 川喜多記念映画文化財団に在籍。世界各国の国際映画祭に日本映画を紹介する橋渡しや、シネマテーク特集上映のアシストを担当する。また、ベルリン、モントリオール、イスタンブールなどの映画祭では審査員を務めた。ベルリンやヴェネチアのコンサルタント経験やネットワークなどを生かし、2001年2月より現職。

もあります。つまり私たちは、新旧によらず今観ることが可能な映画は、すべて現在の映画と捉えているんです。

だから私たちは、現在の映画行き詰まっているとは全然思わないし、そうでなければ人生やってられません。確かに規模から言えば、フィルメックスはメジャーではない映画祭かも知れません。でも私たちは、自分たちこそ世界の映画の現在を伝え続ける王道だと信じているんです。
(月刊DVDナビゲーター2007年9月号より転載)

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