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02年の『ピンポン』以来、「木更津キャッツアイ」シリーズ、『ジョゼと虎と魚たち』、『博士の愛した数式』、『さくらん』など、単館拡大系でのヒットを続けてきたインディペンデント映画会社アスミック・エース エンタテインメント。同社は企画・製作から宣伝・配給、さらにパッケージまでプロデューサー主導の一貫体制で映画をマネジメントし、また多くの新しい才能をデビューさせてきたことでも知られる。しかし、国内マーケットにおける外国映画不振・日本映画好調の流れを受け、ラインナップのさらなる充実が求められることで、同社は今、難しい舵取りを迫られている。一プロデューサーとして長らく同社を支え続け、また執行役員として社内運営にも携わる小川真司氏が、揺れ動く現在の心境を語る。
質と量のジレンマ
現在、日本映画の好況が各方面で言われていますが、外国映画が落ち込んだ分をカバーしているだけで、全体の興収はそれほど変わっていないんですよね。ただ日本映画のマーケットが拡大したのは事実で、そうなると我々としては、配給数を安定して確保していかなければ会社として生き残れない。つまり、質の追求以前に、まずは経営的判断から量の追求が求められるわけです。でも単にマーケット上の成功だけを目指して量産していけば、当るものはより当る、それ以外は見向きもされないという二極化が加速し、映画の面白さが画一化していく状況に拍車をかけることになる。確かに数字の結果だけで判断するなら、明快な売りのないドラマは難しいという話にもなります。でも僕らはいろいろな種類の映画を観てきたし、ビジネスとは別の次元で語り継がれていくべき作品があることも知っているので、映画の豊かさの喪失に加担すべきではないとも思うんです。ですから、社内の執行役員として全体の数字を睨みつつ、ヒット狙いのみに終始して作品の質を下げたくないという想いもあり、そのジレンマで常に悩んでいるわけです。
ただ難しいのが、今の観客は必ずしも良質な作品を必要としてないということ。最近の客層の大多数は、優れた映画を求めているわけではなく、TVで話題の映画をイベント的に楽しもうと言う人たちです。そういった現状の中、新たな映画ファンを掘り起こそうという志を我々と共有しつつも、時代の状況に合わせた戦略を迫られているシネマライズをはじめとするミニシアターとは、ある種の共闘関係にあると言えますね。できれば、他の劇場やパッケージ販売・レンタル店とも、同じ危機感を共有したい。かつては、自分で面白い作品を探し発信していきたいという劇場主や店長がたくさんいました。自分を含め、マーケットの厳しい現実に流されて精神を見失ってはいけないし、どこまで映画への想いを継続できるかが、今問われているんだと思う。
アスミックではプロデューサーが予算も宣伝戦略も考えて、リスクヘッジした上で企画を通すのが通例です。例えば『さくらん』の場合、パッケージで強いという読みが企画段階から成立した。ただ一方で、監督・犬童一心、脚本・渡辺あやによる『ジョゼと虎と魚たち』や『メゾン・ド・ヒミコ』など、大勝ちは望めなくても損さえ出さなければ継続できるクオリティ重視の作品も、アスミックのラインナップにあった方がいい。同様の判断で『天然コッケコー』も、やや強引に社内を通した企画でした。山下敦弘さんは才能ある若手監督で『リンダ リンダ リンダ』を当てた実績もある。でも田舎の分校を舞台にした、地元の少女と東京からの転校生の淡い恋物語は、類似作のヒット実績を挙げづらいし、分りやすい言葉で宣伝するのも簡単ではない。でもこの映画をやることが会社にとって必要であるという想いで、企画をスタートさせました。
調整チーム発足と原案力の追求
また、日本映画のラインナップを安定して確保していく目的で、他社の企画の持ち込みを一括して受け付ける調整チームという窓口を、昨年発足させました。企画開発からだったり、完成した映画の配給・宣伝のみをお願いされたりと、持ち込みのレベルは様々です。ただ、これまでアスミックは作品の全工程をマネジメントするシステムでやってきましたから、どの段階からでも対応は可能です。企画からパッケージまでを見ていくのは大変だけれど、若手のプロデューサーにとっては貴重な勉強の場になっていると思う。
加えて他社の持ち込みとは別に、今後は当社原案によるオリジナル作品も増やしていきたいと考えています。今までは漫画なり小説なり、原作モノの映画化が多かったわけですが、それだとコンテンツホルダーである原作者や出版社の意向にどうしても左右されてしまいます。でもオリジナル作品ならば、シリーズ化やメディアミックスで大きな利益を生み出せる可能性がある。ルーカスの「スター・ウォーズ」シリーズじゃないけど、著作権を保有することで会社の経営基盤を堅固にしていくことは、我々にとってこれからの大きな課題です。
海外市場開拓を目指して
さらに次代を見据えた試みとして“アスミック・エース ハイブリット”というレーベルを立ち上げました。ハイブリットのコンセプトは、実写とアニメなど、異なるジャンルを統合して長所を生かし合うこと。例えば今準備を進めている、海外の監督やプロデューサーと共同製作する国際プロジェクト『シルク』(マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ、役所広司、中谷美紀、國村隼出演)は、外国映画と日本映画のハイブリットと言うことになる。具体的にはイタリア、カナダ、日本の三人のプロデューサーが組んで、
小川真司氏プロフィール
教育ビデオやゲームの開発プロデューサーを経て、『リング0〜バースデイ〜』(00)でプロデューサーデビュー。02年『ピンポン』で単館拡大系のヒットに先鞭を付ける。「木更津キャッツアイ」シリーズ(03、06)、『ジョゼと虎と魚たち』(03)、『マインド・ゲーム』『恋の門』(04)、『真夜中の弥次さん喜多さん』『博士の愛した数式』『メゾン・ド・ヒミコ』(05)、『間宮兄弟』『ハチミツとクローバー』(06)、『さくらん』(07)他、手掛けたヒット作・話題作は多数だ。
それぞれの国で資金を調達した企画です。これまでアスミックは配給会社として外国映画を買い付けてきたわけですが、今後は買い付けから投資へ、つまり作品の内容まで一歩踏み込んで、お金は出すから口も出させてよっていうスタンスも取っていくべきだろうと。つまり、海外市場を視野に入れることで、価値観が単純化した国内市場のみでは回収が見込めないような野心作をも世に送り出すことができるかも知れないと考えての、新しい挑戦ですね。 (月刊DVDナビゲーター2007年7月号より転載)
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