キネマ旬報映画総合研究所
home
映画業界求人情報
再考!日本映画
第10回 (有)ユーロスペース代表取締役・堀越謙三

堀越謙三氏
(有)ユーロスペース代表取締役
堀越謙三 氏

メジャーによる支配に抗い、映画の多様性を確保するために 80年代渋谷の映画文化最前線から地方ミニシアターの現在までを知る“映画界の見者”が、映画環境を巡る困難と希望を語る。

カラックス、キアロスタミ、カウリスマキ、オゾン─77年にシネクラブとしてスタート以来、未見の映画作家を世界各国から発掘し紹介、シネマライズ、シネセゾンほかと共に渋谷発映画文化を牽引してきた映画館・ユーロスペース。東京を世界有数の映画都市にまでに発展させたそのミニシアターを率いてきたのが、同館代表の堀越謙三氏だ。  現在は金沢市内でミニシアターも経営し、上映専門家養成講座の開講、非営利上映活動の推進などで地方都市の映画振興にも尽力する同氏。映画美学校、東京藝術大学で後進育成に取り組む教育者の顔も持つ映画人が、都市と地方における映画文化の推移を語り、新しい日本映画の可能性を予告する。

“文化都市・渋谷”の隆盛と退潮

77年にシネクラブとして発足、映画館ユーロスペースを設立した82年は、セゾングループの一大文化戦略の最盛期。池袋の実験劇場「スタジオ200」やライブハウス「ジアンジアン」、そして「PARCO劇場」など諸々の文化スペースが活況を呈していた。その流れの中で、我々の劇場や「シネマライズ」などのミニシアター文化も開花したわけです。当時のミニシアターのコアな人口約1万人を大別するなら、まず半数程度はいわゆるシネフィル。彼らは「淀川長治も絶賛している」、「黒澤明も気に入り手ずからステーキでもてなした」と聞けば、未知のイラン映画であっても数週間なら満席にした。残りの半数はと言うと、映画に限らずアート全般の先端を走っていたい高感度層。「ブルータス」「話の特集」「マリ・クレール」などのサブカル雑誌に渋谷のアートシーンをリードする勢いがあったから、映画と音楽・演劇・現代アートなど様々なジャンルが自然にクロスオーバーした。例えば『ゆきゆきて、神軍』の公開時「ロッキング・オン」がパンクなオヤジってことで奥崎謙三特集を組んだら、ギターを抱えた若者が劇場に押しかけたこともありました。ところが、サブカル全般が地盤沈下しそれらの雑誌が影響力を失うと共に、ミニシアターの客は半減してしまった。

サブカルが死滅し観客の嗜好が単純化した要因としては、時代精神の問題ではあるけれど、アート系映画がビジネスになり始めると、まず映画に携わる人間の教養が低下していき、そして同時に時代の先端を自認していた雑誌媒体も、自ら文化を発信していく志を忘れていったことが大きい。独自の個性を競っていたサブカル誌はカタログに成り下がり、誌面を広告として売り渡すまでに堕落したわけです。その傾向が加速した現在、多くの観客が映画に求めるのはある種の成功譚や純愛と言った、発見や驚きとは無縁の感動。そういった単純な価値観が、都市部をも覆いつつある。

シネコンの支配拡大と地方ミニシアターの苦境

それに対して地方都市では、郊外へのシネコンの出店攻勢で、街の中心にあった老舗映画館が相次いで閉鎖に追い込まれている。また、シネコン間の競争激化で作品の争奪戦が展開し、結果、地方のミニシアターの生命線であった小規模の佳作まで奪われる事態も起きているんです。例えば、ウチが金沢市で経営するシネモンドというミニシアターでは、市内で公開される年間360本の映画の約半数を上映している。もしこの劇場が潰れたら、金沢市における映画のリテラシーが著しく減退してしまいます。そのようにして、地方都市の中心部において映画文化の空洞化が進行していくわけです。

外資系シネコン上陸の圧力で、大手映画会社が通年で系列館の番組を編成するブロックブッキングが崩れ、結果、邦画が伸長することは10年前から予想していました。旧態依然としたシステムを過去の遺物にするのは、高邁な理念じゃなく徹底した市場原理主義ですから。ただ現在は、大手映画会社の興行網に囲い込まれることでシネコンの前提だった自由な番組編成が失われ、結果一部の邦画のみが勝ち組の仲間入りをしただけになっている。

そういった状況に抵抗するため、僕は上映会・映画祭の企画から宣伝、そしてミニシアター経営までレクチャーし、将来映画上映に携わる人材を育成する「上映専門家養成講座」を年ニヶ所、地方都市で開講しているんです。それと、非営利上映団体の組織化を目指す「コミュニティシネマ支援センター」にも参加してきましたが、そこにはいつも大手映画会社を招くようにしています。大手は非劇場での上映に協力的でないと言われてきたけれども、結局これまでは自主上映団体との接点がなかったのが大きい。成瀬巳喜男の生誕50周年では、全国の賛同者に呼び掛け、何とか一千万を超える売り上げを達成できました。これらの草の根的な活動を継続することで、観客がハリウッド大作とTV局製作映画しか見るこのできない現状に抵っていきたいと考えているんです。

外国籍日本映画の可能性

地上波TV局製作の映画による市場支配は、法規制を強化しない限りこの先10年以上続くでしょう。本来、TV局が出資した映画を自らの電波で宣伝するのは、公正な競争原理に反する。日本政府は許認可事業に対する規制が甘過ぎると思う。例えばEUでは、TV局のメディアパワーの潜在力を現実的に把握し厳しく規制することで、自社利益追求への暴走を警戒している。加えて日本と全く違うのが、TV局の潤沢な資金が独立系のプロデューサーを通して流れ、作家性の高い映画監督を支援して

堀越謙三氏プロフィール

82年、渋谷にミニシアター「ユーロスペース」を開館。レオス・カラックス、アッバス・キアロスタミ、アキ・カウリスマキ、原一男ほか国内外の優れた映画作家を紹介、配給・興行・宣伝から東京の映画文化を牽引する。また、『スモーク』(95)『ポーラX』(99)他で映画製作にも進出。97年にはNPO「映画美学校」を開校、清水崇ら次代の映画人を輩出した。東京藝術大学大学院映像研究科の立ち上げにも尽力し、現在製作領域・教育主任教授を務めている。

いること。極端なのはフランス政府で、ハリウッド映画が過半数を占有する劇場とTV局から回収した資金を、フランス、EU諸国をはじめ世界各国の映画へと再分配している。だからフランスを交えたEU諸国との共同製作という形で、日本映画でもフランスやEUから製作資金を調達できるんです。今後は優れた日本の映画作家がフランス国籍の映画を撮ることも増えてくるでしょう。芸術をビジネスにするのはフランスの伝統的なお家芸だけど、そうやって彼らはハリウッド映画のグローバリズムに抵抗しているわけです。
(月刊DVDナビゲーター2007年6月号より転載)

 < インデックスに戻る
ページTOPへ
© Kinema Junpo Film Institute,Limited,All Rights Reserved.