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再考!日本映画
第9回(株)ツインズジャパン取締役プロデューサー・下田淳行

下田淳行氏
(株)ツインズジャパン取締役プロデューサー
下田淳行氏

ジャンル、バジェット、公開形態その多様性が日本映画を活性化する ビデオストレートから全国公開作まで、幅広い作品歴を持つ下田淳行プロデューサーの言葉で、90年代から現在までの日本映画を問い直す

ビデオ店の全盛期、レンタル収入を主な回収源に見込み量産されたオリジナルビデオ作品。各社から競うようにリリースされたそれら作品群は、90年にその先陣を切った東映ビデオのレーベル名に倣い「Vシネマ」と総称された。バイオレンス、エロス、カーアクション──中心となる男性ユーザーの生理に忠実なラインナップでこのVシネマは大きく伸長した。その中から「ミナミの帝王」「仁義」「静かなるドン」ほかの長期人気シリーズが生まれ、哀川翔、竹内力らVシネマ発のスター俳優も誕生。また、黒沢清、三池崇史ら気鋭監督、高橋伴明、長谷部安春、小澤啓一といった中堅・ベテラン勢の活躍の場ともなった。

そんなVシネマの最盛期において、「勝手にしやがれ!!」「復讐」「修羅の極道」ほかの監督・黒沢清×主演・哀川翔コンビ連作をはじめ、瀬々敬久監督『冷血の罠』、石井聰亙監督『エンジェル・ダスト』などを次々製作してきたのが、下田淳行プロデューサーだ。近年は『黄泉がえり』『ドラゴンヘッド』『この胸いっぱいの愛を』『どろろ』などの大作も手掛ける同氏。早撮り・低予算のVシネマから地上波TV局製作・大手メジャー配給作品までを世に送り出してきた氏が、Vシネマの盛衰、そして日本映画の現在、未来を語る。

Vシネマという量産体制の崩壊

僕がVシネマを手がけていた90年代は、業界全体の雰囲気が今より格段に自由でした。当時は映画に限らず、ドラマへの高いニーズに対し、製作本数が圧倒的に不足していた。だから、プロデューサーになった当初はTVの深夜ドラマ枠を中心に、年間50本くらいを量産しました。面白いと直感したら、瞬発力と行動力に任せてとにかくやる。「何かやりましょう」っていう役者や監督との初対面の挨拶も、単なる社交辞令じゃなくて本当に一本の作品に結び付く。土曜の晩に浮かんだ企画を、週末に手書きで勢い良く仕上げて月曜の朝に提出したりとか、正に野蛮な時代でしたね(笑)。

それだけ勢いのあったVシネマが低迷したのは、ジャンルが限定されて企画のマンネリ化が進み、ユーザー離れが加速したことが一因と言えます。しかし、それをさらに大きな視点から見ると、劇場とレンタルビデオ店がリンクする形での、産業構造全体の問題が浮かび上がってくる。

つまり、一方では都市郊外・地方を問わず劇場のシネコン化が進み、劇場主の個性が反映した名画座が激減していく。そして他方では、店主の好みを棚作りに生かした中小のレンタルビデオ店が、大手ナショナルチェーンとの過当競争に敗れその傘下にフランチャイズ化されたり、廃業に追い込まれる。この劇場とビデオ店の二重の画一化が、一次・二次使用の両面でVシネマの居場所を奪っていったんです。

けれども、低予算・早撮りというVシネマの量産体制の中で、哀川翔・竹内力らを中心としたスターシステムが機能し、監督、脚本家、スタッフの研鑚がなされていたのも確かです。つまり、Vシネマは一種の撮影所的な機能を果たしていたことになる。そのVシネマのバジェットが縮小され、製作本数が激減することは、人材、技術、ひいてはVシネマを支えてきたジャンルそのものの衰退にも繋がる。そして、例えば哀川翔演じる等身大のチンピラに感情移入して、深夜のレンタル店をサンダル履きで訪れていたような観客も、切り捨てられていくわけです。

大ステージと小ステージ

そんな中でも僕は、黒沢清監督の「勝手にしやがれ!!」シリーズなどでその高い技術を信頼した喜久村カメラマンを『黄泉がえり』に、丸尾美術監督を『どろろ』に起用したりしている。つまり、Vシネマという小ステージからTV局製作の大手メジャー配給作品という大ステージへ人材の橋渡しをする役目を、結果的にですが担った。でも、Vシネマが破錠し、単館ミニシアター系の映画も苦戦を強いられることで、中小規模のステージが壊滅状態になってしまうと、そういった人材・技術の流れが途絶えてしまう。そうなると新たな人材発掘の場はTV製作会社や自主映画になるわけですが、自主映画からでは技術スタッフは育ちません。さらに、全国規模のマーケットを前提とした成功が至上命題になると、企画が保守化し、映画の個性が失われていく危険性もある。これには非常に強い危機感を抱いています。

映画の多様性を志向して

Vシネマの退潮でパッケージに依存したビジネスモデルが行き詰まり、大きな挫折感を覚えたことは確か。しかし、それにより映画はまず劇場で勝負すべきという基本に立ち戻れた。私が所属するツインズジャパンは、現在は映画へ出資し製作委員会に参加しています。製作・配給・興行からパッケージまでトータルで関わることで、映画ビジネス全体を把握できるからです。

各組織の代表が合議制で進めていく過程で、委員会が調整の場に陥ってしまう危険も確かにある。けれども、例えば黒沢清監督の『回路』や『LOFT』『ドッペルゲンガー』のように、単純なジャンルでは規定できない野心的な作品も、製作委員方式で作られているわけです。この三作には日本テレビの奥田誠治プロデューサーも参加していますが、『ALWAYS 三丁目の夕日』や「DEATH NOTE デスノート」前後編のようなプロジェクトを成功させると同時に映画の多様性をも尊重する奥田さんの姿勢には、非常に共感を覚えます。

下田淳行氏プロフィール

制作進行からキャリアをスタートさせ、30歳でプロデューサーに転進。「勝手にしやがれ!!」「復讐」「修羅の極道」シリーズなどのVシネマ時代の連作から現在まで、黒沢清監督作品を多数製作する。また『冷血の罠』『RUSH!』他で瀬々敬久、『エンジェル・ダスト』『ユメノ銀河』で石井聰亙監督作品をプロデュース。『CURE キュア』『回路』『ドッペルゲンガー』『LOFT』『ドラゴンヘッド』『黄泉がえり』『この胸いっぱいの愛を』『どろろ』他、代表作品は多数。ツインズジャパン取締役プロデューサー。

劇場興収のみでは難しくても、二次使用も含めた中長期的なスパンで回収ができ、同時に興収とは別の文脈で残っていく作品もある。そういった幅の広さが、日本映画の発展に繋がると思うからです。

加えて、今後は日本映画も海外市場に目を向けるべきだと強く意識しています。僕は『エンジェル・ダスト』や『CURE キュア』の頃から、海外マーケットを含めたビジネス展開の可能性を模索してきた。国内だけでは想定する客層も同じ顔ぶれになり、企画の類型化を招きますからね。日本映画好調が謳われる現在こそ、新たな市場を開拓するための挑戦が必要なんです。
(月刊DVDナビゲーター2007年5月号より転載)

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