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再考!日本映画
第8回シネカノン代表取締役・李鳳宇

李鳳宇氏
シネカノン代表取締役
李鳳宇氏

“強い映画”は時代も国境も越える 89年のシネカノン設立以来、現在までに160本以上の映画に携わってきた映画プロデューサー・李鳳宇が語る理想の映画とは

89年、クシシュトフ・キエシロフスキーの出世作『アマチュア』、ジャック・ベッケルの傑作脱獄劇『穴』のリバイバルから配給業をスタートし、『シュリ』『JSA』『殺人の追憶』など一連の韓国産エンタテインメントの紹介で女性週刊誌的な加熱とは別の側面から韓流ブームを牽引。92年『月はどっちに出ている』で映画製作にも着手し、『のど自慢』『KT』『さよなら、クロ』『パッチギ!』、そしてアカデミー賞 外国語映画賞日本代表に選ばれた『フラガール』など話題作・問題作を次々発表。加えて国内五ヵ所、さらに韓国・明洞でも劇場経営を手掛けるシネカノン代表・李鳳宇。製作・配給・興行機能を併せ持つ独立系映画会社の中でもその動向が常に注目を集める同社を率いる氏が、日本映画の好調を検証する。

“強い映画”の追求

日本映画の大ヒット作連発は、まずは業界全体の功績として悦ばしいことと言える。ただ50億、70億の興収を記録した作品が、後年まで語り継がれていくイメージが持てないと言うのも正直な実感。なぜならそれらの映画の成功は、世界的に見れば非常に特殊な日本映画業界の産業構造に拠っているからです。大手三社がチェーン傘下の劇場を通年で編成する、いわゆる「ブロックブッキング」という配給・興行の一体化の結果と言ってもいい。はじめに全国規模のスクリーン網ありきで、その枠をブランドスタジオやシリーズものなど動員の読めるアニメ、そして大量宣伝によるバックアップが約束された地上波TV局の映画で埋めていく。つまり日本映画の好調は、地上波TV局の番組編成と同じ発想が支えているわけです。しかし本来ならばアメリカのように、スクリーンごとの平均興収によって公開規模がフレキシブルに拡大・縮小されるのが、健全な興行の在り方だと思う。

また、メガヒット作が連続することで観客が俳優の演技力や監督の作家性に魅了され、彼らの次回作も観に来るといった理想的な循環が起きているわけでもない。例えば『殺人の追憶』の冒頭、ソウル郊外の畦道をトラクターに揺られていくソン・ガンホの顔を見た瞬間、物語の展開を予告するような沈鬱な表情に、観客は目を奪われる。そういった映画俳優の発見が、観客を継続的に劇場へと導くわけです。相手の台詞を受ける、台詞と台詞の間を演じるのが映画の芝居なわけだけど、自分の台詞で精一杯のモデル上がりが、良質な映画ファンを育てるはずがない。まともな演技の訓練すら受けたことがない人間ばかり登場する映画が蔓延すると、本質的には地上波の広告媒体としての価値を高めるための手段に過ぎないTVドラマのように、一過性のものとして消費され忘れ去られていくことになる。それでは洋邦の興収が21年ぶりに逆転したと言っても、本当の意味で日本映画が復興したとは言えないでしょう。

最近の大手各社のカラーを分析すると、『世界の中心で〜』『いま、会い〜』の東宝は恋人との死別、『座頭市』『クイール』『子ぎつねヘレン』『武士の一分』の松竹は盲目、そして『バトル・ロワイヤル』『男たちの大和〜』の東映は、やはり大量殺戮でしょうか(笑)。それらメジャーに対し敢えて僕たちの映画を定義するならば、それは“強い映画”ということになる。

38度線上の共同警備区域で芽生える南北兵士の友情とそれが引き起こす悲劇『JSA』、前科者と脳性麻痺患者の恋愛を描く『オアシス』、戒厳令下のソウル郊外で起こった連続殺人事件をひとつの時代病として捉える『殺人の追憶』──我々が配給してきた外国映画は、商業映画のフォーマットの範疇で社会性の高いテーマを語り、ハードな現実を観客に突きつける内容だったと思う。喧嘩に恋に明け暮れる60年代京都の青春群像『パッチギ!』だって、劇中歌の「イムジン河」が象徴するように在日韓国・朝鮮人を巡る差別の主題が全編に底流している。純愛や難病といったフィクショナルなハードルの克服を物語り、観客から涙を搾り取るような詐術的映画が10年・20年後にも再見されるとは思えない。僕らにとっては、時代も国境も軽々と越えていくような“強い映画”が理想なんです。

日常の延長に映画がある

僕たちの映画製作は、ベストセラーの映画化権争奪戦を勝ち抜いた上で、人気タレントと売れっ子監督を召集する通常のプロセスを踏んでいない。作品単体ではなく、人生を共にするような長い関係性からでないと、優れた映画は生まれないと考えるからです。何本も一緒にやっている阪本順治、井筒和幸といった監督たちとは、家族ぐるみで飯を食ったり温泉に浸かったりする仲。そういった日常で交わすごくありふれた世間話、身の上話が発展して映画の題材となる。もともと監督たちと一緒に作っているという感覚なわけだから、『月はどっちに出ている』や『パッチギ!』などの作品に僕個人のエピソードが色濃く反映されるのはごく自然なこと。僕の中では自分が作ってきた映画は全部一本に繋がっている。各作品が総体として万華鏡的な物語世界を形成しているバルザックの「人間喜劇」のようなものとして、自分のフィルモグラフィを捉えているんです。

「シネマ信託」の可能性

04年の信託業法改正に伴い、映画を含めた知的財産の信託が可能になったことを踏まえスタートした「シネマ信託」は、シネカノンが製作・配給する映画に投資を募り、その収益を投資家に配当する新しいビジネススキームです。会社は一般的に株主のものとして語られますが、僕個人はそこで働く人間のものと考えている。同様に映画も観客ありきではなく、まずは面白い作品を作りたいという作り

李鳳宇氏プロフィール

89年配給会社シネカノン設立。「穴」「デカローグ」「カップルズ」「ウォレスとグルミット」「シュリ」「JSA」「オアシス」「殺人の追憶」など欧米・アジアの秀作を多数配給。また「月はどっちに出ている」「のど自慢」「KT」「さよなら、クロ」「パッチギ!」「フラガール」「魂萌え!」ほかを製作する。現在国内5ヶ所と韓国明洞にて劇場を経営。

手の想いから出発すべき。そういった信念で映画を製作・配給してきたシネカノンが、現在総額47億円という巨額のファンドを信託されている。これは僕らの実績と理念が支持された証だから、大きな自信に繋がっています。ベストセラー原作、人気タレント、そして出資企業の合議の場である製作委員会──シネマ信託によってそれらから離れ、自由で大胆な企画に賭けることができるわけです。
(月刊DVDナビゲーター2007年3月号より転載)

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