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再考!日本映画
第6回プロデューサー・一瀬隆重

一瀬隆重氏
(株)オズ 代表取締役
一瀬隆重氏

真のエンタテインメントとは何か―日本映画の構造変革を目指して 社会現象にまでなったJホラーブームを海外に飛び火させ全米マーケットを制した一瀬隆重の目に映る、現在の日本映画

日本人プロデューサーとして初めて米メジャースタジオと契約を結び、10月13日公開の『THE GRUDGE2』が前作『THE JUON/呪怨』に続き全米興行収入ランク第一位を記録――世界的なJホラーブームの仕掛け人・一瀬隆重が、いまハリウッドで前人未踏のキャリアを重ねつつある。市川崑監督・石坂浩二主演のオリジナルコンビによるリメイク『犬神家の一族』公開も控える国際派プロデューサーに、その眼差しの見据える先を聞く。

“本物の娯楽映画”とは何か

興収という観点に立てば、確かに一部の日本映画は好調と言える。ただ、二十億円を超える作品が頻発し成功の基準が上がることで、逆に企画が保守的になってしまうという弊害も生んでいます。加えて、TV局が映画製作に積極的になることで、TVディレクターがTV的に演出した映画が急増。それと平行してTVタレントまでスクリーンに一斉移動した結果、本業であるはずのTVドラマで役者が不足する本末転倒な事態にまでなっている(笑)。ただ、大手配給とTV局の組み合わせによる宣伝に乗せられた観客が、号泣する準備万端でTV映画に大挙する状況は、個人的には肯定しがたいですね。“放送”という言葉が象徴的なように、フロー型のメディアであるTVには、瞬発力重視で分かりやすい面白さが求められる。でも映画って、画一的なメッセージからはみ出すような、豊かな行間に満ちたものだったように思うんです。自分の製作する映画に関して常々思っているのは、時代を超えて残るものにしたいということ。作られた時代を反映しながらも、本当に面白い映画は決して風化しない。

連続殺人の謎解きから次第に露になる、閉塞的な血縁関係。等々力警部の早合点や湖面から突き出した逆立ちの死体の足などのユーモア。そして軽やかなジャズのリズム、グラフィカルなタイトルデザイン――オリジナル版「犬神家の一族」公開時にはその絢爛豪華な魅力に、連日朝から晩までスクリーンに釘付けになりました。質量ともに輝かしい作品群を、観客が想像力を働かせて楽しむといった幸福な関係性が、かつてはあったように思う。

では今はどうかと考えると、ビジネスとしては少し好転しているとは言え、かつて日本映画が輝いていた時代の伝統や技術の継承がなされているわけではない。現在の日本映画は方向性を見失っているように見えます。それならば、黄金期を知る人材が現役のうちに、技術継承の場を設定することには意味がある―――そう思ったのも、「犬神家の一族」のリメイクを決意した理由のひとつです。

企画と予算のアンバランス

また、最近は日本映画でも数十億円クラスのバジェットの作品が目立つようになりましたが、それでも企画規模の見合うだけの豊富な資金が用意されているとは言えない。かつては六億の企画を二億で作れと言われていたのが、今は三十億の企画を十億で、となっているわけで、結局ディスカウントの度合いは変わっていないんです。結果、二百人エキストラを用意したら全員をフレームに収めなければもったいないみたいな、貧乏臭い発想から抜けきれていない。観ていると悲しい気分になりますね。

『輪廻』では、『THE JUON/呪怨』で全米ランク1位を獲得しハリウッドから凱旋した監督の清水崇に不自由な予算で撮らせるべきではない、たとえフレームの外であっても贅沢なセットを建てることに意味があると考え、日本製ホラーとしては破格の予算を組みました。清水にとっては、あのタイミングで『輪廻』を撮ったことが、『THE GRUDGE2』に繋がったと思う。

ハリウッド進出の真意

日本映画の今後を見据え、クレバーな投資家が現れて、十分なお金をかけて製作しても資金を回収できるシステムを構築できないかとは、以前から考えていました。満足な宣伝費さえあれば、TV局の出資がなくてもTVスポットも潤沢に打てるし、現在とは異なるビジネススキームだって組みようがある。ただ日本では、そういった新しいプレイヤーが登場する気配がない。そればならば、ハリウッドメジャーと組み、本場の映画製作のノウハウを学び日本にフィードバックしようと。具体的には、20世紀フォックスとの契約は、同社に優先的に企画を提案するという内容になっています。さらに、英語作品だけではなくローカルプロダクション、つまり僕が企画する日本映画への出資にも、フォックスは興味を示している。ちょっと歪な形ですが、外国のお金で日本映画を製作する時代が来るのではないかなと。先日読んだノンフィクション「黒澤明VSハリウッド『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて」の中で、黒澤監督は「日本映画の状況はドン底だ。挽回するためにはハリウッドの資本を使って日本映画の力を世界に証明しなければいけない」と言っていた。そして僕には、現在も全く同じ状況に見えます。

一瀬隆重氏プロフィール

1984年、弱冠23歳で劇場公開作品をプロデュース、『リング』『らせん』(98)の大ヒットでJホラーブームを決定付ける。『ほの暗い水の底から』(01)『呪怨』(02)と続くホラー作品群で海外からも注目され、『THE JUON/呪怨』、続編『THE GRUDGE2』では連続全米ランク1位の快挙を達成。現在はフォックスとプロデューサー契約を結び、日米を股にかけ活躍する。著書「ハリウッドで勝て」(新潮新書)が発売中。
ブログはhttp://www.takaichise.com/blog/まで
最終的にフォックスを選ぶ決め手になったのは、ジム・ジアナポリス会長の、“一本の映画が失敗したとしても、別に世界が終わるわけじゃない”という言葉。僕も、野心的な企画であればたとえ結果が伴わなくても、他の作品でリカバーすればいいという姿勢で映画を製作してきた。それと、ハリウッドは配給会社の選択肢がたくさんあるから、作品のカラーによって配給先を選択することができる。さらに、業界全体の発展を阻害しないというルールは遵守した上で、各社は競争している。業界の在り方として、日本よりずっと健全だと思いますね。(月刊DVDナビゲーター2007年1月号より転載)
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