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再考!日本映画
第4回 プロデューサー・小椋悟

小椋悟氏
(株)小椋事務所
小椋悟氏

時代に磨耗しない、世界レベルの“商業芸術”を志向して 鈴木清順、中島哲也、そして大友克洋─その際立った個性のクリエイターと組み映画製作を続けるプロデューサー・小椋悟。その映画製作の目指すところとは

『夢二』以来の鈴木清順復帰作にして、あの『殺しの烙印』の女性ヒーロー版『ピストルオペラ』。CM界の巨匠・中島哲也の映画監督本格デビュー作、ゴスロリ少女と北関東ヤンキーの女性バディムービー『下妻物語』。そして清順復帰第2作、チャン・ツィイー主演のミュージカル時代劇『オペレッタ狸御殿』──。今やマーケティング戦略先行・テレビ局主導型が映画作りの常道となった日本映画界において、野心的かつ挑戦的な作品群を次々製作してきたプロデューサー・小椋悟。その個性的なフィルモグラフィーを貫くポリシーに迫る。

“商業芸術”としての映画

映画のことちゃんとしゃべるわけ?上手に言えるかな(笑)。ま、映画っていうのは、興収という数字で成否が判断される商品であるだけじゃなくって、デジタル技術が発達した現在では特に、後々に残る芸術作品でもある。つまり僕の言葉で言えば、“映画は商業芸術”。だから商業性と芸術性のバランスは、常に意識していますよ。意外かも知れないけど、商業的成功を測る数字上の詰めっていうのも、結構緻密にやってる(笑)。ただ映画は1本単価で考えると、どうしてもハイリスク・ハイリターンな水物的商売。だから振り返って考えると、リスクも承知で興行の成功以外の副次的な価値も理解して作品に賭けてくれるような人たちと、一緒に仕事をしてきた。日本社会はもはや成熟の段階に入っていて、みなまで言わずとも理解してくれるような人物も多いしね。例えば鈴木清順の新作に出資することで、企業としてのブランドイメージがアップするという考え方もあるわけで。それにチャン・ツィイーに美空ひばりと仕掛けを派手にして、あの清順さんに渡せば、予想外にブッ飛んだ商業的化け方をするかも知れないじゃない。

そんな中、最近ウチの製作した映画で、商業性と芸術性のバランスが最も上手く取られた作品と言うと『下妻物語』になるかな。原作を読んで、すぐに主演の深田恭子さんに話を持っていった。あと、渋谷系ポップカルチャー映画の金字塔にしたいという野心があったんで、トリッキーな仕掛け方を模索したんです。何をしたかと言うと、それは秘密です。教えません。

作家×題材による化学反応

『下妻物語』の原作を中島哲也監督に持っていったのは、CM作品やSMAPのショートムービーなどで知っていた彼の資質が開花する題材だと思ったから。鈴木清順復帰作『ピストルオペラ』の脚本家・伊藤和典さんの場合は、「平成ガメラ」シリーズの論理的かつロマンティックな脚本にノックアウトされたのが大きかった。「機動警察パトレイバー」シリーズでの、押井さんの観念を商業映画の枠内に収める職人ぶりにも驚いたしね。僕の中には、どのクリエイターと組むかについて、それぞれ理由がある。ただ一貫しているのは、彼らがチャームポイントを発揮できるよう導くという姿勢。それと、作家性の強い監督とやる時にはホンの段階でかっちり詰めるし、逆に手堅い職人監督とやる時は企画のエッジを効かせたりする。そういったバランス感覚もプロデューサーにとっては重要でしょう。だけどちゃんとできてんのかな?オレ(笑)。

最新作『蟲師』の監督・大友克洋さんの場合は、同時代のプロデューサーとして、フェリーニ・黒澤に比肩しうる才能と組んでみたいという気持ちがまず大きかった。クリエイター・大友克洋に対する国内外の注目度というのは、ものすごいしね。

海外映画祭出品の狙い

それから、海外の映画祭へ積極的に出品をしているのは、受賞で箔付けして凱旋興行を伸ばそうとしているからじゃない。映画文化への理解が深く、作家への尊敬の念も強い欧米の映画マーケットに対して、我々の作るものがイイ線いってるのか証明するためなんです。『オペレッタ狸御殿』も、アジアの代表だというおごり(笑)でカンヌに出品した。ホンダやフェラーリが、F1という世界最高峰のレースに参入するような感覚だよね。それで世界に勝負をかけるなら、鈴木清順、チャン・ツィイークラスのハイスペックで臨む必要があるだろうと(笑)。そういった場所だと、国内マーケットのみを覗っているような映画じゃ、レースに勝てないでしょ。映画祭関係者やプレスに見てもらうことで、その後海外とのビジネスに繋がる可能性も当然視野に入れている。

ちなみにヴェネチアのコンペに出品が決まった『蟲師』では、現場でひとつの具体的な試みに踏み切ったことがあってね。それはロケ地や撮影環境、そして撮影期間の長さに十分な資金を投入すること。今回は、緑の美しさをフィルムに焼き付けたいというのが大友さんの演出コンセプトだったんで、まずロケハンで原生林が群生している山奥を探してきた。それで、1時間1カット、1日10カットの贅沢なペースで、3ヶ月強の合宿撮影を敢行したんです。ド派手なCG特撮に対してなら分りやすいんだろうけど、そういった無意識下に訴えてくる部分への贅沢な予算配分を決断するには、プロデューサーとして非常に度胸が試された。ただ韓国映画が着実に力をつけているのは、人材の育成に国を挙げて取り組んできた成果でもあるけれど、撮影環境の違いというのも大きいんじゃないかな。韓国では映画のステイタスが高いので、1時間1カットの撮影ペースが許される。でも例えば日本映画で五千万規模のバジェットだと、どうしても1時間4カットは消化しないとキツい。そういった違いが、結果として画面のクオリティの差として出てしまうからね。

小椋悟氏プロフィール

20代半ばにしてフリーランスのプロデューサーとして独立し、89年に株式会社小椋事務所を設立。映画、TV、OVとメディアを問わず、映像関連全般の仕事を手掛ける。『ピストルオペラ』(01)、『幸福の鐘』(02)、『下妻物語』(04)、『オペレッタ狸御殿』(05)、『姑獲鳥の夏』(05)ほか代表作多数。最新作は漆原友紀原作・大友克洋監督『蟲師』

ひと言でプロデューサーと言っても、出資や配給に長けている人、インフラの整備や編成が得意な人、立場によっていろいろな人がいる。今回は、企画・資金繰り・現場からポストプロダクションまで、映画製作のあらゆるプロセスに立ち会ってきたプロデューサーとして、映画の環境を変えるきっかけになるかも知れない実験をしてみたかったんだよね。以上、ま、ゴチャゴチャ言いましたが、結局は景気のいい映画作って、世界中のみんなに観てもらいたいだけ。それだけ。

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