何かを「知らないこと」自体は決して「悪」ではないと思うが、「知らないこと」によって生じやすい「偏見」は「悪」であると考えている。
そういう意味では、映画業界への就職を希望するか否かにかかわらず、あらゆる時代、国、人種、思想、あるいは宗教の在り様を描き続けてきた、「映画」という人類の遺産に幅広く触れることは、年齢や性別を問わず有用なことではないかと思う。
― あなたにとって「映画」とは?
ある日突然に妻が家からいなくなってしまうことはあっても、映画が私の人生から存在しなくなることはないと思う。
ジョン・カサヴェテスの「グロリア」からの台詞を借りるとすれば、「映画は、私の母親で、父親で、家族。…そして親友。…恋人。」― 私の人生にずっと寄り添い続ける存在といえる。
― 若い人たちにお薦めしたい作品は?
1、楢山節考
監督:今村昌平(1983年)
人間を含めて、動物である限り、「死」と「生」と「性」に関する問題を避けて通ることはできない。私の人生は、この世に生を受け、生殖し、そして、この世を去っていく、という気が遠くなるほど繰り返されてきた人類の営為のほんの一部に過ぎないのだという自明のことについて、あらためて考える機会を与えてくれた作品。
2、鬼火
監督:ルイ・マル(1963年)
自殺志願者の最後の二日間をスケッチした作品。自分の人生の最期も、彼と同じように、日常の流れの中で静かに迎えることができればよいと思う。
3、反撥
監督:ロマン・ポランスキー(1964年)
本作のカトリーヌ・ドヌーブは悪魔的に美しい。彼女演じるキャロルが次第に精神を崩していく様を、非現実的な映像と音楽によってロマン・ポランスキーが表現。極端な瞳のクローズアップで始まるオープニングから早くも徒ならぬ妖気を漂わせており、初めてこの作品を観たときには、飲みかけのビールを思わず一旦テーブルに置いたほど。
4、 恋のゆくえ
監督:スティーブ・クローヴス(1989年)
全篇に流れるジャズの音色、揺れる男女3人の心。積極的に映画を観始めた中学生の頃、初めてこの作品を観たときには、月並みな表現だが、同級生たちが未だ知らないであろう世界に触れ、少し大人になった気がした。 |