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映画興行対談
映画興行対談

第14回「2007年上期の日本映画興行を振り返る」

掛尾:
かつて、単館系の洋画配給会社が成立したのは、10万ドル(1,000万円)、それ以下でも買えた時代があったからなんです。でも、いまはこうしたビジネスモデルが全く成立しなくなっている。
しかも若い観客が育っていない。10年前は背伸びをしたい女子高校生、女子大学生に向けて情報を発信して口コミで広げればアート系の劇場にも人が入りましたが、いまはそういう観客自体がいなくなってしまった。かつて、ゴダールの「パッション」をシネ・ヴィヴァン六本木に観に行ったら、雑誌の『リュミエール』を持った女の子がいっぱいで入れなかった。「お前ら、分かってるのか」と怒りながら帰った記憶があります(笑)。
いまアキ・カウリスマキの作品を上映してもやっても来るのはおやじとおばちゃんばかりですからね。
大高:
興行における作家主義というのは世界的に見てもすでに終わっていますよ。
掛尾:
だからホウ・シャオシェンとかウォン・カーウァイとかジム・ジャームッシュとか、20年前にデビューしたアート系の作家がいまでも活躍して、2001年以降デビューしたアート系の作家はほとんどいないんです。日本に限らず世界的にね。数少ない例外がジャ・ジャンクーあたり。中国はまだダンボール肉饅頭だとか目茶苦茶な部分がある国だから描くことがたくさんあるのかも知れないけど、日本やフランスにはアート系監督が描くものは何もなくなっている。
大高:
確かに情けないことかも知れないけど、映画製作の状況としては完全にそうなっていますよ。だって黒沢清とか青山真治とか、作品的には日本で一番突出しているように見える監督の作品が観客を呼べないですもん。
それはアジアでもヨーロッパでも同じでしょう。カンヌでの「サッドヴァケイション」の評価は果たしてどういうものだったのか。
この10年間で映画を取り巻く環境は物凄く大きく変化しました。いまの情報戦の時代は監督の名前なんかどうでもいい。例えば「電車男」や「西遊記」の監督は誰、って聞かれても誰も答えられないですよ。これだけ映画監督の地位が下がっている時代はかつてなかった。でも、プロデューサーの名前は結構出てくる。それは時代の流れとして致し方ないことでもあるんですよね。
掛尾:
そういう状況にありながら、映画の学校の生徒は増えているんだから、不思議な国ですよ(笑)。映画をつくりたいっていう若者はたくさんいる。
大高:
だから年間400本も500本も映画がつくられる(笑)。
掛尾:
でも彼らはあまり映画は観ていない。映画は好きではないけど、映画はつくりたいと言うんです(笑)。
昔、キネマ旬報の名物編集長が「映画が好きな奴は駄目だ、映画の仕事が好きにならなければ駄目だ」と言っていました。つまり、映画が好きな奴は、放っておけば映画ばかり観て仕事をしないから駄目だというんですね。
大高:
昔は映画好きが多かったからね(笑)。でもいまは映画好きが少ないから逆なんだよね。
掛尾:
そう、だから僕は映画業界を志望している若い人たちに対して「映画は極力観た方がいい」と言っているんだけど、ある時、「映画を観なければ映画はつくれませんか」と質問されて。「実はそんなことはない」と答えてしまった(笑)。いまは映画会社の経営者でもあまり映画が好きでない人が増えていますからね。
大高:
ハリウッドでもそうじゃないですか。かつてはハリウッド・タイクーンのように映画好きの大プロデューサーが監督を重用してつくっていたのが、いまではマーケティング・リサーチ主導で映画をつくるという風に変わってきている。いまの映画会社のトップは映画好きではなくて、マーケティングに長けているだけだから。
掛尾:
ともあれ、観客が育っていないという状況があり、今後も新しい観客を増やすことが難しいと言われる中で、映画業界では10回観る人を12回観るようにしようという、つまりリピーターを増やす戦略が取られていますね。
大高:
実はアメリカもそうなんですが、映画人口はヘビーユーザーが支えているんです。1回も観ない人は絶対に観ない。映画を観る人にもう1回お願いしますというのは1つの方法ですよね。
掛尾:
チネチッタのように観れば観るほど安くなる割引システムを導入したり、TOHOシネマズではTO(十)HO(4)に引っ掛けて毎月14日を1,000円にしたり。日本中の映画館は何でもいいから理由を付けて割引したいわけですよ。
大高:
シネコンでもレイトショーは8時台からやっていて、1,200円で観られる。段階的な割引はかなり進んでいますけどね。
掛尾:
「映画料金は高いか、安いか」というアンケートを取ると、ヘビーユーザーは安いというんですよ。彼らはどうすれば安く観られるかを知っていますから。逆に映画をめったに観ない人は高いと。めったに観ない人は1,800円払いますからね。
まあ、しかし、リピーターの鑑賞回数を増やすことも重要ですが、将来につながる新しい、若い観客をどう拡大していくかということも考えなければいけないでしょうね。
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