キネマ旬報映画総合研究所
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映画興行対談
映画興行対談

第13回「フラガール」

常磐ハワイアンセンターと日本人論

掛尾:
しかし、最初に「フラガール」と聞いたとき、 私はヒットする予感はなかったですね。何せ常磐ハワイアンセンターですからね。
大高:
私はありましたね。若い世代にはないと思いますが、「常磐ハワイアンセンター」という場所には、ある年代の人たちは独特の思いを抱きますね。ユーモアとペーソス。それも何か、日本人の郷愁を誘うような。……つまりこの言葉には、日本人の精神性をギュっとつかんだような不思議な感触があるんですよ。「フラガール」は「のど自慢」にも通ずる、一種の日本人論なんだと思います。
掛尾:
そうですかね……。「常磐ハワイアンセンター」といえば、当時私は中学生でしたが「田舎にハワイつくってどうすんだ」と言う印象でした。勿論、全国津々浦々で楽しみにしている人が沢山いるとは思いましたが。
大高:
企画のつかみとして、「のど自慢」と同じように、日本人がどこかに置いてきたけれども愛着が残っているものが根っこにあると思います。だから、そこに感じ入る観客の年齢層は高いわけだし、作品に力があるから、その志はしずちゃん効果で観にくる若い世代にも伝わっていく。
掛尾:
リアリズムじゃないところは良かったですよね。貧しい土地が舞台だけれど、目を覆う貧しさではない。
大高:
美術は種田陽平さんですね。なかなか効果的な舞台設計だと思いました。長屋とか、すごく良かったですね。
掛尾:
「ALWAYS 三丁目の夕日」ほどあざとくはないんですけども、明るさや夢があった60年代、というコンセプトには共鳴しました。ただ、自分のことを思うと、当時は “常磐ハワイアンセンターだってよ”と笑ってましたね。
大高:
私は笑うというよりも何か不気味なものとして感じていましたよ。近寄りたくないんですよ、常磐ハワイアンセンターには。常磐とハワイをつけてしまうという破天荒な発想……とにかく強烈で、何かこの世のものではない印象がありましたね、子ども心に。全国での知名度としては、今の「東京ディズニーランド」くらいはあったかもしれない。
掛尾:
全然違う例ですが、60年代、GSブームでタイガースとかスパイダースが出たときに、瞬間「東京ビートルズ」っていうバンドがあったんですよね。すぐ消えたんですが。その印象に近いんだよね、「常磐ハワイアンセンター」って(笑)
大高:
「東京にビートルズ」よりも「常磐にハワイ」、のほうが凄くないですか(笑)。当時は海外旅行に行く人なんか、庶民にはいないわけですから、そうするとハワイがついてる常磐で、仮の海外旅行ができる。国内でハワイの香りが味わえる。フラダンスを取り上げたことが「フラガール」のヒットの要因として重要だとは思いますが、純粋なダンス映画の要素だけで受けたかどうかというとちょっと疑問で、やはり「ハワイに行けないんだから常磐ハワイアンセンターに行く」というあの時代への郷愁というか、そうした大衆訴求力が今回のヒットに関連していると思いますね。
掛尾:
それは東京のエリートプロデューサーからは出てこない発想かもしれないですね。 勿論、李さんが落ちこぼれってことではありませんが。
大高:
製作者たちが、独特の日本人論というか嗅覚を持っているんでしょうね。外部から見た日本。これは実は内部から見たものより、強烈なところがあるんですね。
掛尾:
私は、言うなれば「フラガール」に表出しているのは、アナーキズムだと思います。
大高:
アナーキズム?
掛尾:
例えば「フラガール」で労働組合をあそこまで悪者に描くというのは、実際にハワイアンセンターを作ろうとしたときに、そういった史実があるのかもしれないですが、当時の組合の人たちも沢山生きているわけですから、ちょっと違ってたら「あれは違う!」と抗議が入ったりするわけですよね。ところがそういったことに対して、李さんは割合平気というか動じないんですよね。「パッチギ!」の時もそうですが。大手映画会社の企画だったら逃げたくなるような、反対勢力に対する抵抗に関してひるむところがない。反対勢力と成り得る人たちよりもさらに厳しい地平にいたという自負かもしれないですが。
大高:
それはプロデューサーのもってる重要な資質ですよ。アナーキズムという言葉が的確かどうかはまた別として。映画からある種の自主規制を取っ払うということですからね。規制だらけだと映画は絶対つまらなくなる。
掛尾:
現在主流を占める企画は自主規制してそこから逃げていますからね。だから、やはりインディペンデント作品では、大手の企画では成立させられないものを描いて欲しいと思うし、ただそうかといって、暴力だらけの、普通の人が見て不快感を感じるような映画が見たいというというわけではなく、「フラガール」のような商業性を持ちながら、強い主張も発信する娯楽映画を今後も作っていって欲しいと思います。
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