キネマ旬報映画総合研究所
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映画興行対談
映画興行対談

第13回「フラガール」

しずちゃんとパブリシティ

掛尾:
数年前の調査によると、映画ファンの映画を観る動機のトップはテレビからの情報で、2番目が予告編でした。やはりテレビ局製作の作品は自動的にテレビにパブリシティが出ますからヒット効率も高いと思いますが、「フラガール」のような、テレビ局の絡んでいない作品の場合、パブリシティの要は何でしょうか。例えば東宝系の劇場の場合、観客数が他劇場に比べて4〜5倍くらいあるから、東宝作品の予告編を、5倍以上の人が観ていることになる。それはメジャーの場合のヒット要因のひとつだと思いますが、インディペンデント配給作品は、それができない。もっと細やかなパブリシティが要求されるわけですよね。
大高:
パブリシティということで言うと、今回南海キャンディーズのしずちゃんがパブで相当露出が多かった。主演級の松雪泰子や蒼井優よりも、しずちゃんの露出が目立って、宣伝としては成功なんだろうけど、実際映画を見るとあの映画の中で彼女のシーンだけ、流れがおかしくなっているというのが素直な感想です。例えば、ああいった大きな体の独特の存在感を持った人を起用するなら、黒澤明の「椿三十郎」みたいに、シンボリックな存在として動き中心にして喋らせないとかしてもよかったのではないか。今回はドラマにも絡んでいるから、演技的にちょっときつかった。
掛尾:
やはり旬な彼女が出ているということで、お笑い番組やその他のパブに露出が出たことは大きかったでしょうね。今のテレビは、お笑い中心だから、映画とは全く無関係なお客を呼び込めるということもあるんじゃないでしょうか。それは、プロデューサーの戦略としては成功だと思いますが。
大高:
起用が悪いわけじゃないんです。しずちゃんはけっこう重要な役どころだと思うんですが、監督はしずちゃんを前にどう対処していいか分からないという気が凄くしたわけです(笑)。さっきから掛尾さんが言っている“プロデューサーの企画”の中で、監督はそこでどう闘うかということが重要なんですね。しずちゃんのシーンでその困惑ぶりが出ている気がしました。
 昔のプログラムピクチャーの中でも、脇役としてコメディアンがよく使われていたじゃないですか。当時の人気絶頂のコメディアンをちょっとドラマの中で遊び的に使うわけですが、コメディアンが出てくるシーンで観客はゲラゲラと笑うわけですよ。でも残念ながら、しずちゃんの場合、その反対にシラけちゃったという印象です。個人的には、非常にもったいないと思いました。
掛尾:
それは現代のドラマやキャラクターの構造もありますし、最近の映画は「泣かせる」というキーワードがあって、本作もその路線なわけで、大高さんの言うような昔のプログラムピクチャー作品のように、コメディアンが笑いをとる役割だけじゃ済まなくなってきていますからね。作品のジャンルとしても、相対的に喜劇がウケないで泣く映画がウケるというのは、ひとつあるんじゃないですか。
大高:
まあ、昔のコメディアンは芸達者ですからね。他の俳優さんのことを言うと、松雪泰子も蒼井優も良かったけど、とくに蒼井優は方言が一番上手いので感心しました。あれは見事だったし意外だった。彼女がいい、なんていうのは今や当たり前になってきているかもしれませんが、若手女優の中で演技の質は突出していますね。それがとくに「フラガール」では光っていた。ただ、作品に恵まれていたことも大きかったでしょうね。
掛尾:
ふたりの良さもありますし、豊川悦司にしても、今回は豊川悦司らしからぬ良さがありました。それから、藤純子のような大御所俳優の見せ場をきちんと用意するということもやってますね。プロデューサーがそれぞれの俳優に見せ場を作って光らせながら、物語を自然に構築しているところが凄いんじゃないかと思います。
大高:
掛尾さんはプロデューサーの映画と言いますけど、それぞれの役者をきちんと光らせて、見せ場でちゃんと演技をさせているということでは、勿論演出の映画でもありますよ。前の「69 sixty nine」と比べても李監督の演出の力が抜群に上がっていると思います。
掛尾:
それはそうかもしれません。やはり「俳優が光っている」という映画は強いと思います。例えば映画を知るきっかけとして「しずちゃんをテレビで見た」とか「フラダンスに関心がある」というきっかけがあって映画館に行ったとして、他作品よりはるかに俳優が光っていて、笑えて、泣けたという口コミが広がったんでしょうね。
大高:
しずちゃんの芝居がもっと良かったに越したことはなかったけれど(笑)、やっぱり作品の力が口コミにつながったと思います。
掛尾:
作品の質が良い映画は沢山あるし、俳優の光っている映画だって他にありますけども、それだけじゃパブリシティは露出できない。この作品は、それプラスアルファの強さも持ち得ていたんでしょう。「かもめ食堂」のような5億のヒット感じゃいけないわけですから、ある種のケレンがないといけないわけですね。
大高:
「フラガール」の映画化自体が、既にケレンそのものですから。
掛尾:
ひとつ付け加えると、この映画の持ってるストーリーの強さは海外のプレスに受けていましたね。アカデミー賞の外国映画賞の代表に選ばれたこともあるし、釜山映画祭でも絶賛されていました。反対に「ゆれる」は韓国公開されましたが、感情表現が分かりにくかったのかあまりヒットはしなかった。また、テレビドラマの映画化で大ヒットした日本映画も、海外では、テレビを見ていない外国人にとって設定やギャグが分かりにくいという声も聞きます。その点「フラガール」は原作すらないオリジナル作品ですが、その普遍的な物語性で勝負できる。国内外でヒットを狙える強い作品じゃないかと思います。
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