キネマ旬報映画総合研究所
home
Backnumber
映画興行対談
映画興行対談

第11回「明日の記憶」

日本型エンターテイメント

掛尾:
「DEATH NOTE」という原作をピックアップした時点で、日テレは「マス」に育つ作品の見分けができていたんだと思います。同じ漫画原作でも、アスミック・エース配給の「ハチミツとクロ−バー」は良い作品にはなるだろうけれど、マスにはならないという気がする。日テレは「かもめ食堂」のようなマスを狙っていない作品もやっていますが、今回はマス企画を、洋画メジャー会社配給で行ったのが、正解だった。作品自体も、今東宝であたっている映画とはまた違う色あいの、ひとつの可能性が示せたのではないかと思います。また、もしこの企画を東宝が手掛けたら、主人公がこれほど人の死を操れるキャラクターにしたかは微妙ですね。この面白さは人の死を自由に操るところにあるのですから。
大高:
私は、漫画を読んでいませんが、映画から判断する限り、この原作の物語は抜群に面白いですよね。ジャンプに連載されていたけれども、読者は男性だけでなく、女性も多いと聞いている。そういう意味では、稀に見る面白い原作をもとに、しっかりとマーケティングがなされている企画と言えます。また、先ほど「マトリックス」という話があがりましたが、中身は「マトリックス」とは全く違う。この作品は、アナログなんですよ。金子監督のアナログスタイルが妙に好きでしたね。映像でガンガンおしていく作品でないところも、好ましかった。オーソドックスにストーリーを追っているしね。
掛尾:
確かに「マトリックス」のような複雑な世界観は描いていないですよね。僕の生理でも大丈夫だった(笑)。
大高:
今回の「DEATH NOTE」はこのシンプルさが重要だと思います。作品の賛否はあると思いますよ。特に原作が好きな人は例によって反発していますし。また、先ほど掛尾さんは「マスになり得る企画」と言いましたが、この企画は、テレビ局の中で相当のリスクはあったと思うんですよね。ここで描かれている「死を操る力」や「犯罪者への制裁」という設定は、かなり、問題となり得る要素をはらんでいる。テレビ局がこういう設定を扱うということにおいて、一種のタブー性があったわけですが、この点は軽々と乗り越えてしまったと。特に批判もでませんしね、この国は。
掛尾:
最近の幼児殺害の事件など、凶悪犯が死刑にならないという現代日本で、このテーマというのは、センセーショナルな問題です。
大高:
ただ社会的なものと、隣接はしているけれど、かけ離れていることがまた興味深い。このストーリーはかなり遊べるというか、一種のゲーム感覚ですよね。そういう要素がヒットの大きな要因になっている。次はどうなるという期待を非常に持たせる展開になっていて、[前編]の終わり方も、[後編]にうまくつながっている。[前編]に失望した原作ファンも、何だかんだ言って[後編]を見にいくんじゃないか。
掛尾:
優れた原作を映画として見せきるエンターテインメント性と、安定した演出力がありますよね。強い監督の個性というよりも、演出力。何度も例に出しますが、これはアスミック・エースの目指すような世界とは違いますよね。エッジィな原作というより、広く人気があるものを、作家性というより職人的演出で仕上げ、しかし、「海猿」ほど大味でもない。
大高:
そうですね。何回も言いますが、私としては金子監督の稚気溢れる演出が好きでしたね。撮影所出身の監督という色が随所にあって。「海猿」と聞いて思うのは、日テレとフジテレビの製作する作品の違いですね。実は近頃は、邦画大手三社よりもテレビ局の方が製作作品のカラーが出てきているわけですよ。フジテレビは、ハリウッドの模倣的な部分も多いですが、日テレはそうでもない。「ALWAYS 三丁目の夕日」など日本の風土に非常に合った作品が時々出てきますよね。「DEATH NOTE」についても、日本型のエンターテイメントになっていると思います。
2/4ページ
© Kinema Junpo Film Institute,Limited,All Rights Reserved.