キネマ旬報映画総合研究所
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映画興行対談
映画興行対談

第11回「明日の記憶」

重いテーマと救いの要素

掛尾:
東映は、「YAMATO男たちの大和」「バルトの楽園」など、ここしばらく高齢層狙いの映画を作り続けていますが、中でも「明日の記憶」はコンセプトがしっかりした作品だと思います。「四日間の奇蹟」のように、東宝の路線を狙うと失敗もしますが、やはりこういった作品の在り方はいいなあと思いますね。興行収入は5月末現在、20億はいくのではと言われています。
大高:
最終的には、23〜25億ぐらいの可能性もあるんじゃないでしょうか。ただし、封切り前はここまでのヒットは予想されていなかったですね。内容の良さも含めて、そこそこいくんじゃないかという声はありましたが。
掛尾:
10億以上は大丈夫だろうという声はありましたよ。
大高:
この作品は、渡辺謙が「SAYURI」の撮影中に原作本を読んで、これはいけるんじゃないかというところからスタートし、東映に持ち込んで、彼の所属プロダクションもお金を出し、プロダクションの代表がプロデューサーとしてクレジットされている。というように、渡辺謙からはじまって彼を中心に動いた企画だけに、プロモーションの節目節目に彼がメディアに出てきて、これが大きな力となった。例えば、テレビ朝日が「ハリウッドにおける渡辺謙」というような特番を組む。公開中に彼が本を出版する。この本では、自分がある病気に冒されていたことまで明らかにした。とにかく、彼自身の露出の形が際立っているんですね。これは視聴者に大きなアピールを与えたと思います。
掛尾:
例えば、映画の規模はもっと小さいけれども、ヒットした「寝ずの番」も、この作品が大健闘した要因のひとつには、監督の牧野(津川)雅彦がテレビに多く露出したということがあると思います。前回の「LIMIT OF LOVE 海猿」と形は異なるけれども、つまり今はテレビを活用しないと、映画のヒットが難しくなっているということですよね。
大高:
今回の「明日の記憶」は、読売新聞が出資しているので、読売新聞が映画に絡めて「若年性アルツハイマー」の記事を公開前に随時載せていたということも、映画のターゲットであるところの年配層への大きなアピールになっていると思います。だからこの作品に関しては、テレビ媒体だけではなく、活字媒体におけるアピール度も高いといえます。つまり、逆の言い方をすると、今はそこまでしなければ映画が当たらなくなっているわけですね。単に作品の力によって映画が当たるかというと、そんな単純な“構図”にはなっていない。公開に至るまでに監督や俳優が、色んなところでメディアに露出して、どこまで映画のアピールをするか、できるかということが、興行の大きな鍵になっているわけです。
掛尾:
だから、監督や俳優の露出時に、映画のコンセプトやテーマが伝えやすい、ということは重要ですよね。今回は「渡辺謙が製作・主演で、若年性アルツハイマー」というように。
大高:
切り口が、はっきりしていますよね。
掛尾:
内容的な話をすると、私が作品を観て感じたのは、リアリティを狙いとして抑えていたんじゃないかということです。実際にアルツハイマーになった人は、外見も相当に変貌してしまうと思うんです。この作品では、ラストシーンで、妻である樋口可南子をも認識できなくなった渡辺謙が、彼女に「どなたですか」と言う時、本当に精悍なわけです。例えば、数年前の松井久子監督の「ユキエ」という作品は、アルツハイマーになっていく妻を夫が支えていくという話なんですが、あちらはもう少しリアリティがあった。「明日の記憶」では、あまりリアルにやりすぎていないので、観る側としてはそんなに辛くない。
大高:
そうですね。この作品には、「救い」の要素を幾つも入れていると思います。
掛尾:
重くならないようリアリティを抑えたとして、私が個人的に、もうひとつ乗れなかったのは、アルツハイマーの症状が出てきたとき、皆同じ顔をした会社の同僚たちが行進していくというシーンや、交差点で風景が回転するようなところです。
大高:
私は、傑作だと思いましたよ。特に俳優のことを言うと、樋口可南子がとても良かった。彼女の醸す独特の存在感は、熱演スタイルの渡辺謙の演技に引っ張られていないだけに、その対照の妙がすごくいいんですよね。この映画は、シンプルに渡辺謙と樋口可南子の2人の演技が素晴らしく、そのことが映画の強さになって観客にも伝わったと思います。
掛尾:
確かに、もう少し生活臭のある女優さんだったとすると、重くなりすぎてしまったでしょう。
大高:
樋口は、そのいささかリアリティをはずしたようなひょうひょうとした感じが、重いテーマを描く上でのオブラート的な役目を果たしているのかもしれないですね。
掛尾:
私はさきほどいったような堤幸彦監督の演出に乗れない部分もあるんですが、そこが観客に受け入れられたということもあるかと思います。彼より上の世代の監督が作ったら、もっと暗くて重い映画になっていたかもしれないですからね。その、重いのも見てみたい気がするんですが。
大高:
そう思うのは、掛尾さんだけでしょう。
掛尾:
…そうですか(苦笑)。
大高:
これ以前の堤監督作品で、私が一番好きなのは「2LDK」という作品なんです。非常に巧くできた密室劇で、この監督は「TRICK」とか「ケイゾク」とか、何となくトリッキー風な印象があるけれど、「明日の記憶」を観て、どういう方向に行くか分からない可能性のある監督だなと思いました。「明日の記憶」も、違う監督だったら、うまくいっていない可能性もあると思います。この監督の起用にしても、渡辺謙の意図するところだったらしいですが。
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