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映画興行対談
映画興行対談

第10回「LIMIT OF LOVE 海猿」

多層的な展開

掛尾:
「LIMIT OF LOVE 海猿」の興行収入は、5月末現在の累計で、45億円。最終見込みが70億円だそうです。
大高:
70億ですか!
掛尾:
僕が観て驚いたのは、とにかくカット数が多いこと。ワンカット10秒以上のシーンがないんじゃないかというくらい短いです。このスピード感というか、目まぐるしい映像を観客は全然違和感なく受け入れているんだと思います。突っ込み所が満載の映画なんだけど、観客は全然気にしないで楽しんでいたという印象。僕は、平日の五時くらいの回に有楽町マリオンで観ましたが、平日だからそんなに若い人ばかりではなく、30代後半の女性たちが割りといて、みんな泣いていましたね。
大高:
今は、もう何を観ても泣きますよね。日本人はちょっとおかしくなっているのでは…?
掛尾:
ただ突っ込みたくはなるけれど、けっこう楽しめました。
大高:
公開とちょうど同じ時期に、フジテレビが「ザ・ヒットパレード」というテレビ番組を2日連続でやったんです。この作品は芸能界を題材にした群像劇で、「LIMIT OF LOVE 海猿」と似た演出の肌合いを感じました。それは、この会社が持っている「お祭り感」。フジテレビにとっての映画作りは「お祭り」なんだと改めて思いましたね。制作部、スタッフ、編成部…社が一丸となって公開まで作品を盛り立てていく姿勢も、「お祭り」に通じている。各局には、色んなカラーがありますが、フジテレビは、映画、ドラマを作るときのポジションから各部署の関わり方まで、他社には真似できない個性、つまり「お祭り」のときのあのノリの良さがあると思います。
掛尾:
確かに一口にテレビ局といっても、フジテレビと他の局では特に色が違いますよね。なんと言っても番組の時間の使い方が違う。それと、各局の担当者なのか、局の方針なのか、映画に対するアプローチが微妙に違いますね。フジテレビは、大高さんがいうように、一丸となって企画を盛り上げ、ヒットを作り出すコツのようなものを会得しているように感じます。それは、作品のクオリティや内容とは別の次元でのノウハウでしょうか。フジテレビも、映画製作の初期の頃は「南極物語」では蔵原惟繕監督、その後も「木村家の人々」「病院へ行こう」の滝田洋二郎監督など、映画監督を起用し、映画側の様式に合わせようとしていたと感じますが、「踊る大捜査線」あたりから、テレビ側の様式で映画を作るように変化したように思えます。それが、ある種のノウハウを会得したということなんですけども。
大高:
「LIMIT OF LOVE 海猿」の話に戻ると、この作品、ちょっと安直なヒロイズムが鼻につきますよね。
掛尾:
そうですね。極端な話、視聴率と連動した使用ボキャブラリーとか、人物、物語の描写の抽象度が数値化されたデータを持っているのではと勘ぐってしまいます。視聴率20%以上狙うなら、ある範囲以内のボキャブラリーしか使ってはいけないとか。
大高:
レベルを下げているのではなく、このノリが普通なんでしょう。迎合しているのではなく、ストレートに出している感じがします。
掛尾:
僕は計算していると思いますね。視聴率と描くテーマのレベルについては、製作者は感覚的に反射神経があってそれを共有しているのではないかと。ただ、本作が70億にいったとき、喜んでると同時に、もしかしたらちょっといき過ぎてやばいんじゃないかと、内部で危惧する空気が出てもいいんじゃないかと思ったんです。
大高:
というのは?
掛尾:
三谷幸喜の一作目の「ラヂオの時間」が配収で4億、興収で約8億、三作目の「有頂天ホテル」が60億ですね。それから「海猿」のパート1が17.4億で、パート2が今や70億に届くと言われている。つまり、さっき言ったように一昨年ぐらいからシネコンによる一本かぶり現象が出てきて、数年前のポテンシャルで考えれば20億以内のものが、60億にいくようになった。そうすると、映画全体のパイ=興行収入が2004年は約2000億円、2005年は1900億円と、広がっているわけではないので、「LIMIT OF LOVE 海猿」がほかの作品を全部喰ってしまっていると思うんです。ミニ洋画、インディペンデント邦画もそこに含まれている。そのことに関しての危惧があってもいいのではないか。かつては10億のポテンシャルの作品が、今や25億〜30億に届く可能性が凄くあり、他を喰ってしまうと、日本の映画産業の構造が大きく崩れてしまうのではないか。全体のパイがどんどん大きくなるなかで、テレビ局が関係する作品もヒットするなら問題ないと思うのですが…。おそらくこの現象が、今度の「TRICK2」(テレビ朝日)や「UDON」(フジテレビ)でも見られると思います。
大高:
テレビ局の関わる映画が今後も大ヒットしていくという面では、かなり大きな確率でそういう状況になるのではないでしょうか。各局ごとで、違う展開になるとは思いますが。ただ、今言われた、三谷氏の三作目「有頂天ホテル」の大ヒット、また今回の「海猿」の二作目の大ヒットというのは、シネコン増加の要因も勿論あるんだれけども、三作目あるいは二作目に至る間のフジテレビの巧妙な宣伝戦略、私はそれが一番大きいと思っているんです。
 特に三谷氏の三作目に関しては、事前の三谷幸喜ドラマの制作を含めて、もう全部連動してるわけです。つまり先ほどから言っているように、フジテレビの場合は、制作、編成など部署の横列で一気呵成に映画の情報が露出していく体制ができている。それは「南極物語」の頃から既にそうですね。つまり正月にオンエアされた『古畑任三郎』の視聴率が二十数パーセント取れば、三谷幸喜のバリューは上がり、1月14日公開の「有頂天ホテル」の認知は一段と膨らむ。だから、1、2作目の「ラヂオの時間」とか「みんなのいえ」の時とは全く違う、多層的な宣伝になっている。また「海猿」はパート1の頃から連続ドラマ化、パート2の制作が予定されていたわけですよね。ドラマがあって映画とか、映画があってドラマという流れはありましたが、「海猿」はそうした単純な仕掛けではない。実に多層的で巧妙な戦略だと思います。
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