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| 大高: |
ところで、この作品の弱点はなんでしょう?
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| 掛尾: |
僕は、いわゆるオヤジ世代の友人が「泣ける」というので、その術中にはまってたまるかという心構えで見てしまった。敢えて弱点を言えば、薄さですかね。その場でみんな号泣していたけれど、映画館を出ると何を見たのか忘れてしまうというか。しかし、その薄さも「重過ぎない」とプラスに見ることもできる。
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| 大高: |
見終って、会話ができるということもあるのではないかと思う。描かれた世界の同時代を生きた世代だけじゃなくて、ファミリー層まで巻き込んでいる。そこが昭和三十年代ブームのポイントだと思います。例えば、テレビがはじめて家に入ってくるシーンがありますが、親子で見ていて、それを知っている親の世代と知らない子供の世代で会話が成り立つんですよね。特にあのシーンは、五十代の親にしてみればやはり喋りたくなる。そういう意味で世代を越えて、非常に会話が出来る映画であるわけですね。
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| 掛尾: |
「電車男」のときも、電車男のオタクが恋に成功するとか、どの世代にも通じる普遍性、毒気の弱いものをやっているわけですよね。そこで今回も、昭和30年代から毒気を除去した世界を用意した。そして「『ALWAYS 三丁目の夕日』は泣ける」とみんなが言う。まさに狙いとおりですよね。
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| 大高: |
面白いのは、「NANA」でも「電車男」でも、映画になっていく過程で、題材に大きな関心を寄せるコア層の人だけじゃなく、観客が一般層まで広がっていくことなんです。逆にコア層は反発する人も多かったりして、ちょっと不思議な浸透の形を経て、一般層に広がっていく。そういった興味深い形が、東宝の企画から映画化への過程に、必ずあるような気がします。CG部分はどうでしたか? あの町並みが非常に評価されていますよね。
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| 掛尾: |
僕はまさに、あの自動車修理屋の子供と同時代に東京の上野で生まれたので、上野だとか東京タワーのふもとだとかが出てくると、この町はどこだろうと考えたりしました。
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| 大高: |
受けた理由は、やはりそういうところなんですかね。同時代に育った人たちは、自分のかつての原風景がうまく再現されて、そこに感情移入できたという。
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| 掛尾: |
そこで重要なのは、貧乏でも、貧乏臭いところを見せないところじゃないでしょうか。嫌なものは見せないで美しいファンタジーにしている。
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| 大高: |
リアリズムが優先されて再現されているにも関わらず、どこか虚構的な感じが全体にするのは、CGがやけにきれいで清潔な町並みを作っているからですよね。
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| 掛尾: |
多分、電信柱と電線や、街並みとか、正確な再現というより若干作り変えてるんじゃないかと思います。
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| 大高: |
そうでしょうね。観客が抱いているあの時代のイメージに、町並みとドラマ構成がうまくはまっていて、観客が「昭和三十年代のドラマである」とすんなり入っていけるように作られていますよね。
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| 掛尾: |
それから思うのは、今の日本人、特にコア観客層の40〜60代は疲れていて、未来を見るより、甘美な郷愁の世界に逃避している。終身雇用も年功序列もなくなり、能力給というギスギスした日常と年金の見通しも暗いから。「今の日本現代がよくないから、あの時代を観てもう一回見つめ直そう」とか、そういう強いメッセージ性はなくて、過去の古き良き時代の雰囲気に癒されたいというか……。
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| 大高: |
非常に今の時代には合う映画なのかもしれないですね。昔の脚本家だと、ドラマ構成の中にテーマ性やメッセージを織り込ませながら、観客に訴えかけるものを作りますけど、これはそういう種類の映画ではないですからね。
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| 掛尾: |
先日テレビで、泣くことはストレス解消になるという特集が組まれていたんですが、そのときも「ALWAYS 三丁目の夕日」を見て泣いている人を映していて・・・・・・。「泣く」というときに、例えば、世界の内戦で子供が殺されているシーンとか、そういったものを見て泣きたくはないと。厳しい現実は見たくない、それで癒されて泣きたいというところに今の日本人の弱さを感じますね。実際の辛く厳しい面を抱えた昭和三十三年は観たくない。
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| 大高: |
日本人全体の精神構造が凄く脆弱になっている気がします。だから優しく癒されるものに惹かれて、逆にハードなものやテーマ性を持ったものを忌避する。それらは、自分の領域を侵してくるから触りたくないわけですよ。映画のように、お金を払って時間を使うときに、自分の精神構造を揺り動かしたり、それと相反するものは観たくないというね。それからこの映画に関してもうひとつ思うのは、古い時代性が、CGを使って綺麗に描かれるとき、若い世代にとっても同時代を生きた人にとっても、それは初めてみるような映像、つまり新しい世界なんじゃないかと思います。
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| 掛尾: |
印象としては、1960年代のアメリカのホームドラマに近いものがあるのかもしれないですね。清潔で、悪い人はいない世界。でも、そのあと現実のアメリカは、みんなハンバーガーばっかり食って太っちゃって、犯罪も多くて、憧れの対象ではなくなってしまった。
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| 大高: |
映画のヒットは時代を反映していますよね。例えば、昔の「007」シリーズは当時非常に新鮮で、観客にとっては憧れの映画というイメージがあったと思います。小道具一つにしても新鮮に映ったわけですが、だんだんアメリカ映画への憧れがなくなっていったというのは、日本人が豊かになったということが影響しているわけです。ハリウッドはお金をかけて新しい価値観を見出すことによって、世界中のお客さんを惹きつけてきたわけだけれども、その価値観が行き詰まりみたいになってきている。それは、豊かさというものと関係があると思いますね。CGもやりつくして、その先は何か?と。ドラマに戻ったりもするんだけど、日本人の精神構造は非常に複雑だから、ワンパターンのアメリカ映画を見なくなり、その間隙を縫って日本の映画が日本人の気持ちの中にスッと入って、今回のようなヒットに繋がる現状があるんじゃないかと思います。
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