| 大高: |
「電車男」は東宝の企画なんですよ。今、映画は製作委員会スタイルで作られることが多くて、その場合どこかの会社が幹事会社になります。企画を立てて、お金を一番出資する会社ですね。それに他の会社が乗ってくる。その幹事会社が今回は東宝だった。この映画化権は争奪戦だったんですが、東宝か東映かと言われていて、東映が優勢だったのが、最後のどんでん返しで東宝にいったんですよ。僕はここがポイントだったと思います。 |
 |
 大高宏雄氏 |
 |
| 掛尾: |
というのは?
|
 |
| 大高: |
東宝の映画調整部は現在総勢八人で、二十代が四人もいるんです。この若い人たちが色々企画を立ち上げ、室長に上げて、さらに部長が全部吟味し、東宝の役員が集まって月2回開催される本部会にあげる。最初のところで、二十代の若手企画マンがいろんな原作に目配せをして企画を作っている、というのが強いんですよね。「電車男」は二六歳の入社四年目の男がいち早く映画化の名乗りをあげた。なんでこれが東映から東宝にいったかというと、この企画マンと新潮社との紐帯が大きかったのではないか。とともに新潮社が、東宝のマーケティング、事業展開等を東映以上に評価したということが考えられます。
|
 |
| 掛尾: |
「電車男」は、インターネットから派生した小説の映画化ということで、著作権に関しても曖昧なところがありますよね。東宝はこれまでそういった作品は扱わなかったのではないでしょうか。
|
 |
| 大高: |
確かに重要な問題を孕んでいますよね。インターネット上での不特定多数の声を集めているわけで、それぞれの著作権はきっとクリアできていないでしょうから。しかしそれは原作と映画は別という考え方でしょう。ところで、聞いた話だと「電車男」は映画化の展開が速かったので、脚本家が数週間でシナリオを書いたらしいです。それを製作委員会の代表者が吟味して、納得できない部分を変えていくという……まさにテレビ的な発想ですよね。若手の新人に近い女性が書いたそうですが、重鎮の脚本家が書いた場合、他人がバサバサ削るなんてことはできないでしょう。
|
 |
| 掛尾: |
この作品は、それこそ「電車男」というブームが去る前に作って公開するという、鮮度=スピードが優先の映画だったということですよね。どっちかというとネガティブなイメージのある「オタク」というキャラクターを一般のファンに受け入れられる人物像にした。
|
 |
| 大高: |
作りは巧妙ですよ。というのも、主人公はオタクのようでリアルなオタクではないんですよね。
もし仮に他の会社でこれを作ったら、もっとジメジメしたオタクの生活臭がいっぱいの作品になっていたかもしれない。女性が観て、「キモイ」と言うような。これは山田孝之の起用がすごく成功していて、「キモくはないオタク」になっている。ファンタジー的な要素もあるフィクションになっているんですよ。
|
 |
| 掛尾: |
その時に、作り手は別にオタクにあの映画を見せようなんて思ってなくて、普通のOLを中心にした観客層に向けて「ラブストーリー」を作ろうというコンセプトがあるわけですね。
|
 |
| 大高: |
そうですね。おそらく東宝はストーカーの話ではなくて、ラブストーリー性を重視した企画として立ち上げ、それが社内でも賛同を得たのでしょう。そこまで煮詰めないとあの企画は東宝では通らないのでは? ただ、昔の映画評論家が見たら「ふざけるな」と思うかもしれない。けれど、「電車男」については作品を分析するよりも、何で若い連中を大勢惹きつけたのかを考えるのが重要なのではないでしょうか。
|
 |
| 掛尾: |
この作品は「内向的な青年が勇気を持って想いをぶつけることで恋が成就する」という昔からあるパターンを今風のネット世界に置き換えたということで、底流にあるものはとてもオーソドックスなものですよね。ターゲットである普通のOLにしても、自分がエルメスの立場になったときに、見ばえのよくない男でも本気で声かけられたら、あの気持ちになるだろうというところで共感できる。ただ、映画会社で企画をジャッジする年配者にとっては、やはりある種の分からないものに対する拒否反応があって、以前だったら通らなかった企画かもしれない。
|
 |
| 大高: |
それが、この企画に関して、東宝の本部会では殆んど賛成したらしいですよ。役員が若くなっているというのもあるし、東宝の役員には何となくネット世代の感覚が分かる人たちが多くなっている。ピーンとくるものがあったわけですよ「電車男」には。
|
 |
 |
 |
 |